複雑系がらみの本

既にブームは遠い昔に去ったのだが、やはり複雑系は興味深いのである。
 
まず最初は、フラクタル図形への興味からこの本を手に取った。

カオス―新しい科学をつくる (新潮文庫)

カオス―新しい科学をつくる (新潮文庫)

文庫本だが、かなりのボリューム。
この本は、熱意はビシバシ伝わってくるのだが、僕はいまいち世界に入り込めなかった。
著者の興奮に、置いてけぼりになった印象。
これを読んだ当時は、カオスについても複雑系についても、僕がほとんど無知だったからかもしれない。
 
意外と面白かったのが、この本。
複雑系 (図解雑学)

複雑系 (図解雑学)

一日で読みきれた。
本当に、エッセンスだけを、超簡単に書いてある。
複雑系」という分野がどういうものか、雰囲気をつかむには良い本かもしれない。
 
で、本当に複雑系という分野へ興味を持たせてくれたのは、やはりこの本。
複雑系―科学革命の震源地・サンタフェ研究所の天才たち (新潮文庫)

複雑系―科学革命の震源地・サンタフェ研究所の天才たち (新潮文庫)

これは、ノンフィクションの読み物としても、非常によくできた本。
あたかもサンタフェ研究所に居合わせて、自らも複雑系の発見に関与しているかのような興奮が味わえる。
まぁ、よく言われるが、ラングトンのグライダー事故の件はそんなに詳しく書くこともなかったのかもしれない。
でも、僕としては、そういうエピソードも楽しく読むことができた。
この本のおかげで、ラングトンのイメージはヒッピー。
 
そして、最近ようやく、この本を読んだ。
自己組織化と進化の論理―宇宙を貫く複雑系の法則

自己組織化と進化の論理―宇宙を貫く複雑系の法則

いや、面白い。
もっと早く読んでいれば、人生も変わったかもしれない。
何が面白いというと、至極当たり前のことをモデル化し、ごく解りやすく素直な推論から結果を導いているのであるが、それらの結果は何故か当たり前とは考えていなかったことであるということ。
 
生体の化学反応のネットワークは、自己触媒型のネットワークである。
これは少しでも生体の代謝系を学んだことがあれば、自然に受け入れられることだ。
こういう自己触媒型のネットワークって、基質が触媒にもなる非平衡系を想定すれば、ごく自然に発生します。
で、こういうネットワークが生じてる溶液を分割してやれば、はい、これって、系が自己複製したということですね。
生命の誕生って、こういう自己触媒ネットワークだったんじゃないでしょうか。
少なくとも僕はこう解釈した。
何か、騙されたような、目からうろこが落ちたような。
 
NKモデルにしたって、基本は、N個の要素(遺伝子など)を持つ個体の適応度を、K個の要素の状態によって決まる適応度の平均によって決めるだけ。
で、個体は、自らの適応度を最適化すべく、要素の状態を変異させていく。
このとき、Kの値が小さければ、変異によって全体の適応度は大きな変化はなく、富士山を登るように最も最適な状態を目指せる。
しかし、Kの値が大きければ、変異するたびに全体の適応度はでこぼこの地形を歩くがごとく変化してしまい、ごく近くの小さい最適状態の山しか目指せない。
このモデルに、個体相互の適応度への影響などを組み込んで考えたら、各個体は今自分の身近に見える最適状態の山を目指して動いているが、他の個体が同時に変化することによって適応度の地形は刻々と変化していくため、結局皆が動く山を必死で追いかけて変化を続けるという世界のイメージが浮かび上がる。
そして、そのような世界が硬直せずカオスにも陥らないための適切なKが「カオスの縁」に落ち着く。
考えてみれば、ごく当たり前の世界観なのだ。
あっちに行きたいと思うが、これが邪魔だから、仕方ないのでそっちに行った。
と思ったら、だれかがこっちに来たおかげでこの邪魔が乗り越えられて、結局あっちに行けた。
そんな感じで、僕らも日々複雑なゲームを続けている。
で、日々のゲームは非常に複雑であることからの帰結として、「先のことはほとんど予測不可能」という事実が現れる。
まさに、人生万事塞翁が馬。
この本を読んで以来、選択を迫られる局面で適応地形が頭に浮かぶようになった。
結局、自分にできることは、今のベストを尽くすことしかないのだと。