ニューデリーの苦い思い出(前編)

以前書いたインド旅行記ではニューデリーのことをほとんど書かなかった。
インド&ネパール(Feb&Mar 1999) - マルコジみそ
何故書かなかったかというと、ニューデリーの空港から電車でアーグラーに向かうまで、「ガイドブックに散々注意書きが書いてあるトラブル」にことごとく巻き込まれてしまったので、恥ずかしくて書けなかったのだ。
でも、最近、結構似たような体験を赤裸々につづったブログが散在していることに気づいた。
どれも面白く、読んでるうちに僕の体験の記憶のディテールが蘇ってきた。
また忘れないうちに、恥ずかしいけど、書き残しておこうと思う。
 
僕はインドにはタイ航空で飛んだのだが、トランジットの関係で最初にタイに2泊した。
それまで海外旅行をした経験がほとんど無かったのだが、タイではうまく交通機関を乗りこなし、トゥクトゥクドライバーとの料金交渉も随分慣れてきた。
何だアジア旅行も言うほど大変じゃないじゃないか、いやもしかすると僕には旅行者としての才能があるのではなかろうかと、カオサン通りの安宿でバックパッカーを気取りながら、思い始めていた。
しかし、それは甘かった。
ぜーんぜん、アマアマだった。
 
今思えば、インドに足を踏み入れた最初の一歩で油断したために、芋づる式にトラブルに巻き込まれることになってしまったのだ。
ニューデリーには深夜到着する。(何故か安い便は深夜到着する。)
空港の出口には、数十人のタクシードライバーが待ち構えているのだが、彼らは出口のフェンスを鷲づかみにし、フェンスを揺さぶりながらこちらに向かって何事かを叫んでいる。いや、「吠えている」というほうがぴったりだ。
この中に出て行くのは、ほとんど狼のオリの中に入って行く心境である。
微笑みの国タイとのギャップにビビりながらも、いやいや俺は大丈夫と、根拠の無い自信を持ちつつ空港の外へと踏み出した。
予想通り、というか、予想以上にタクシードライバーにもみくちゃにされたが、タイで学んだように、盛んに客引きをしている一群から少し離れたところにいる「商売っ気がないと思われる」ドライバーに近づいた。
「××ホテルに行ってくれ」「よしきた」みたいな感じでスムーズにタクシーで出発したかのように思ったのだが…。
タイと同じ感覚で動いてしまったのが大間違いであった。
(注)僕は一人で乗るという愚行をしてしまったが、絶対にタクシーに一人で乗ってはいけない。
 
しばらく暗闇をタクシーが走る間に、助手席の男(そもそも、助手席に男が乗ってること自体おかしいのだが)が何やら電話を始めた。
電話を切ると、「××ホテルへの道は、現在暴動が起きていて、危険地帯になっている。別のホテルに連れて行ってやる。」と言い出した。
ここにきて、ようやく、騙されつつあることに気がついたのだ。
ともかく、必死に抵抗を始めた。
「危険地帯なんてうそだ!××ホテルに連れて行け!」
しかし助手席の男は「危険地帯だってのがわからないのか!」みたいに言う。
「いいから連れてけ!」と言うと、「わかった、じゃあ行ってやろう」ということになり、タクシーは方向転換をして走り出した。
と思ったら、しばらくするといきなり道端から人が飛び出してきて、「危険だ!こっちに来るな!」などと叫んでいる。
助手席の男「××ホテルに行きたい」道端の男「ダメダメ、引き返せ!」助手席の男「わかった」
少しでもインドを知っていれば、これが小芝居であることはすぐに判っただろう。
しかし、正直に言うと、僕はこのとき「いくらなんでもここまで大掛かりに僕一人を騙そうとするわけがない」と思ってしまったのだ。
怪しみながらも、ともかく男の言うところに連れられてみることにした。
 
下ろされたのは、薄暗い路地にある旅行代理店の前。
タクシードライバーは立ち去ろうとしたが、何かトラブルがあったときのために、領収書を書かせた。
そして、旅行代理店に入ると、そこにいるのは何やら無愛想な店員。
いきなり、ツアーの案内を始めた。
ツアーに参加する気なんてさらさら無かったし、そもそも数百ドルの値段はありえなかった。
ツアーは参加しない、ホテルを教えてくれ、と言うと、その店員、30ドル(だったと思う)のホテルを紹介してきた。
「そんなホテルに泊まれるか!もういい、自分で適当に探す!」と言って怒って出て行こうとすると、
「探せるもんなら探してみろ、このあたりには他にホテルはない、それにこんな夜遅くにうろうろするのがどれだけ危険だと思ってるんだ!」と言い捨てられる。
うるさい!と思って一人で周辺を歩いてみたが、本当に真っ暗で、ホテルがありそうな雰囲気もない。
そもそも、ニューデリーのどこにいるのかすら、さっぱりわからない。
仕方なく、旅行代理店に戻り、法外な値段のホテルに泊まるはめになった。
(注)実際には、すごまれてツアーに申し込まざるを得なくなるケースもあるようだ。
 
ホテルでこの場所を確認すると、何とニューデリーのど真ん中。
探せばいくらでもホテルはあっただろう。
完全に騙された!
ショボい、ショボ過ぎる、俺の旅のテクニック!
しかし、あの道端の男、グルだったのか…!?
 
ホテルは、確かに立派だった。
シャワーも完璧に出る。
しかし、チェックイン時間は、夜中の3時!
これから数時間寝るためだけに、30ドルかよ!
怒りでろくに眠れなかったが、長居するのも腹立たしかったので、朝の6時にはチェックアウトしてしまった。
(注)翌朝に旅行代理店の人間がホテルの前で待ち構えていることも多いらしい。僕は早々にチェックアウトしたから出くわさなかったのかも。
 
くそっ、騙されっぱなしで終わってたまるか。
そんなこともあろうかと、タクシードライバーに領収書を書かせた。
これを政府観光局に持っていき、あのドライバーを引っ張り出してやる!
もしかしたら、ぼられたお金も少しは戻ってくるかもしれない。
鼻息も荒く、早朝のニューデリーの町を歩きだした。
まだまだトラブルが続くことも知らず。
(後半に続く)
 
※2007.6.1 追記
世の中には、このような観光案内所がらみの事件で、本当に行方不明になっている方もいる。
僕がタクシーの中ですごまれた時は「殺されるかもしれない」と本気で思ったし、実際にそのような運命をたどる可能性だって少なからずあったのだと思う。
これからインドを旅行される方は、くれぐれもお気をつけて、間違ってもこのようなトラブルに自分から飛び込むような真似はなさらないよう、切に願う。